ヤマザクラ(山桜)— 日本人の心に咲く野生の桜

ヤマザクラ(山桜)は、日本に自生する代表的な野生種の桜です。本州、四国、九州の山地に広く分布し、古くから日本人に親しまれてきました。多くの園芸品種のルーツにもなっており、日本の桜文化の基礎を築いた樹種でもあります。
✿ ヤマザクラ(山桜)の特徴
白い花と赤い若葉が同時につくのが特徴です。
葉裏が白味がある
葉裏が白味を帯びているのが特徴。ヤマザクラ系の花は葉の裏に白味があります。
葉が出てから花が咲く
ヤマザクラの大きな特徴のひとつが、「葉が先に出てから花が咲く」ことです。
開花時期にはすでに赤みがかった若葉が展開しており、白い花との対比が美しく、他の桜とは異なる趣があります。このため、咲いている姿を指して「葉桜」と呼ばれています。

ヤマザクラ(山桜)- ‘Yamazakura’ wild cherry tree
赤みがかった葉
新芽や若葉には赤みがあり、開花期には花と同時に楽しめるのが特徴です。
この赤みはアントシアニン系の色素によるもので、季節の移ろいとともに徐々に緑色へと変化していきます。

赤みがかかったヤマザクラの葉(Reddish leaves of ‘Yamazakura’)

赤みがかかったヤマザクラの葉(Reddish leaves of ‘Yamazakura’)
花の色と大きさ
ヤマザクラの花は一般的に淡紅色から白色で、一重咲きです。花弁の数は5枚。
花径はおおよそ2.5〜3.5cmほどで、ソメイヨシノに比べてやや小ぶりながらも繊細な美しさがあります。

ヤマザクラ(山桜)- ‘Yamazakura’ wild cherry tree in Japan
ヤマザクラは、カスミザクラやオオヤマザクラなど山に自生する桜の総称としても使われますが、種としては別々に分類されます。
✿ ヤマザクラと日本の心
ソメイヨシノが登場する以前、日本で「サクラ」といえばこのヤマザクラを指していました。

ヤマザクラ(山桜)- ‘Yamazakura’ sakura
————— —————
万葉集をはじめ、和歌などの古典文学に詠まれてきた「サクラ」もまた、このヤマザクラを指します。花とともに赤みを帯びた若葉が芽吹くその姿には、自然の美しさと移ろいやすさが重なり、日本人の「もののあはれ」の感性と深く結びついてきたと言われています。
ソメイヨシノのように一斉に咲いて散る人工交配の桜とは異なり、ヤマザクラは山に自生し、木ごとに咲き方や色合いも異なるため、より素朴で個性的な美しさを持っています。
散っては咲く、その儚さに心を揺さぶられた人々が多くの和歌を残してきました。
そんな歌にふれるとき、このヤマザクラの姿を思い浮かべてみると、また違った景色が見えてくるように思います。
————— —————
その中から、代表的な一首をご紹介します。
(在原業平『古今和歌集』)
もしこの世に桜がなかったなら、春はもっと穏やかに過ごせただろうに――
桜がもたらす喜びと、散りゆく切なさを同時に詠んだこの歌は、「もののあはれ」とはこういう心なのかもしれない、と感じさせてくれます。

ヤマザクラ(山桜)- ‘Yamazakura’ sakura
————— —————
参考:
『桜の雑学事典』 2007.3.10 日本実業出版社 井筒清次
『日本の桜』 2009.3.24 日本写真印刷株式会社 勝木俊雄
ソメイヨシノについては、こちら。


日本を彩る桜についてはこちらでも紹介しています。

————— —————