印象派と浮世絵 ー 没入型展覧会を訪ねて | Immersive Museum Osaka 2025

絵画を「体感する」という新しい楽しみ
先日、「Immersive Museum Osaka」を訪れました。
モネ《睡蓮》やゴッホ《花咲くアーモンドの木の枝》など印象派の名作が巨大スクリーンに映し出され、浮世絵の影響を背景に描き出す演出も。まるで絵の中に入り込んだかのような没入感あふれる体験でした。
Contents
会場の雰囲気
会場は、美術館というよりも大きなリビングのような空間。クッションに座ったり、寝転んで眺める人もいて、肩の力を抜いて鑑賞できる雰囲気です。

リビングのような空間でアートを楽しむ来場者たち。
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上映時間は特に決まっておらず、自由に入って自由に出られます。上映は約30分で、何度でも鑑賞することができ、私も時間の許す限り楽しみました。
江戸の町 ― 熈代勝覧の世界にタイムスリップ
最初に映し出されたのは、活気あふれる江戸の町。
巨大なスクリーンの中で、「熈代勝覧(きだいしょうらん)」の人々が動き出します。
行き交う人々の細かな仕草や店先の賑わいが生き生きと映し出され、まるで自分もその場にいるかのような気分になります。

江戸時代の日本橋界隈を描いた熈代勝覧。商店街の賑わいが生き生きと再現されます
戯れる人、ゆったりと歩く侍――映像ならではのリアルさが、江戸の町を目前に蘇らせているようでした。
※熈代勝覧とは、日本橋界隈を描いた風景画で、江戸時代の商店街の賑わいを記録したものです。
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映像は次第に、日本橋のにぎわう町並みから浮世絵屋の店先へと移っていきます。

日本橋の浮世絵店へ
ゴッホの浮世絵コレクション
ゴッホが登場し、浮世絵をじっと見つめるシルエットが映し出されます。

浮世絵を見つめるゴッホのシルエット。彼は500点もの浮世絵を所有していたといわれています
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彼が500点以上の浮世絵を収集していたことはよく知られていますが、改めてその姿を見ると、日本美術への強い関心が伝わってきます。
映像の中で並ぶ数々の浮世絵に思わず引き込まれ、これまで浮世絵にあまり馴染みのなかった私も、その魅力を新鮮に感じました。

浮世絵をじっと見つめるゴッホのシルエット
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浮世絵の影響
日常の一コマの切り取り
浮世絵が印象派に影響を与えた大きな理由のひとつは、「日常を描く」という視点です。
当時の西洋絵画では、宗教画や歴史画が最も価値あるジャンルとされており、庶民の暮らしは絵画の主題としては軽んじられていました。
そのため、浮世絵が切り取る日常のささやかな一瞬は、パリの若い画家たちにとても新鮮に映ったのだそうです。
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左はモネの《ラ・ジャポネーズ》、右は菱川師宣の《見返り美人》です。
どちらも、振り返る女性のポーズが共通しています。

モネ《ラ・ジャポネーズ》(左)と菱川師宣《見返り美人》(右)。振り返る女性のポーズが共通しています
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左はカサットの《手紙》、右は喜多川歌麿の浮世絵です。
どちらも、口に布を当てる女性の仕草が共通しています。

カサット《手紙》(左)と喜多川歌麿の浮世絵(右)。口元に布を当てる仕草が共通しています
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左はモネの《舟遊び》、右は鈴木春信の浮世絵です。
どちらも、くつろいだ日常のひとこまを描いています。

モネ《舟遊び》(左)と鈴木春信の浮世絵(右)。くつろいだ日常のひとこまを描いています
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こうして見比べることで、自分自身も、何気ない仕草に豊かな意味を持たせるという、新たな視点を得ることができました。
ゴッホと浮世絵
展覧会の中でも強い存在感を放っていたのが、ゴッホです。
彼はいくつかの浮世絵を模写し、鮮やかな色彩や大胆な構図を取り入れることで、自らの表現を広げていったようです。
大胆な構図と簡素化された美しさ
浮世絵のもうひとつの特徴は、背景を省き、主題を大胆に切り取る構図です。
左は北斎の《鶯と枝垂れ桜》、右はゴッホの《アーモンドの木の枝》です。
どちらも、枝を画面いっぱいに広げる構図が共通しています。
- 北斎《鶯と枝垂れ桜》
- ゴッホ《花咲くアーモンドの木の枝》
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こちらは、左が北斎の《菊と虻(あぶ)》、右がゴッホの《ひまわり》です。
どちらも、背景をあえて描かず、主題を際立たせる構図が共通しています。
- 葛飾北斎《菊に虻(あぶ)》
- ゴッホ《ひまわり》
没入型展覧会ならではの魅力
巨大スクリーンに投影される絵画は、静止画ではなく、光と音で動きを持つ「体感する絵画」でした。
モネの水面がきらめき、ゴッホの筆致がスクリーンいっぱいに広がる様子は、まるで画家たちの視点を追体験しているような感覚です。
荒波が画面だけでなく床まで押し寄せる迫力は圧巻で、その動きがゴッホの《星月夜》の渦巻く筆致と重なるような演出は、いつまでも残像として心に残りました。

ゴッホ《星月夜》

北斎《神奈川沖浪裏》
今まで図録でしか見たことのない「印象派と浮世絵のつながり」を、視覚と感覚で理解できる新しいアート体験でした。
おわりに
今回の体験を通じて、浮世絵が印象派に与えた影響の大きさをあらためて感じました。
印象派と浮世絵を結ぶ視点は、小さな仕草やささやかな風景の美しさに気づかせ、日常を見つめる目を豊かにしてくれるように思います。
その中でも、とりわけ強い存在感を放っていたのがゴッホでした。
2025年はゴッホ生誕135年にあたり「ゴッホ・イヤー」と呼ばれ、関西でもゴッホをテーマにした展覧会が続きます。
次回は、ゴッホの家族をテーマにした展覧会をご紹介したいと思います。
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展覧会の基本情報
会 期: 2025年5月31日(火)ー9月5日(金)
会場名 : 堂島リバーフォーラム
住所 : 大阪市福島区福島1-1-17
公式URL:https://immersive-museum-osaka.jp
詳細は上記URLにてご確認ください。
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《関連記事》
・ゴッホと《花咲くアーモンドの木の枝》については、こちら。

・「7つのヒマワリ」を訪ねた記事はこちら。