【植物に学ぶ西洋文化】スイセン|神話と文学にみる春の象徴
/ Last updated: 2026.02.12
スイセンは、春の訪れを告げる花として西洋の多くの文化に愛されています。
この花は、春の始まりを伝えるだけでなく、長い歴史の中で人々の心にさまざまな象徴として受け継がれてきました。
スイセンとは
スイセンはヒガンバナ科スイセン属(Narcissus)の植物で、主にヨーロッパから地中海沿岸にかけて分布しています。
英語では一般に Daffodil(ダッフォディル) と呼ばれ、特に花の中央がラッパ状に伸びた種類(ラッパズイセン)を指すことが多いです。
一方で、Narcissus(ナルキッソス) はスイセン属全体を示す学名として使われます。
今回は、ギリシャ神話、キリスト教文化、そしてイギリス文学の三つの視点から、スイセンと西洋文化との関わりをまとめました。
Contents
スイセンの象徴性
スイセンは、その美しい姿とともに、豊かな象徴性を持っています。
ギリシャ神話においては、「無邪気さ」と「自己愛(ナルシシズム)」という意味を持っています。
一方、キリスト教文化や文学の世界では、寒い冬を乗り越えて咲き誇るその姿から「希望」「復活」「再生」の象徴とされています。
これらの意味合いから、スイセンが西洋文化の中でどのように捉えられ、価値づけられてきたのかを知ることができます。
ギリシャ神話とスイセン
スイセンの学名「Narcissus」は、美少年ナルキッソスの名に由来します。
ナルキッソスは多くの人に愛されながらも誰の想いにも応えず、ある日、泉に映った自分の姿に恋をします。
その恋が叶うことはなく、やがて泉のほとりで命を落とし、その場所に白いスイセンが咲いたと伝えられています。

泉に映った自分に恋するナルキッソス
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この物語は「自己愛」や「内省」の象徴として語られ、うつむくように咲くスイセンの姿は、泉を覗き込むナルキッソスの姿と重ねられています。

うつむき加減に咲くスイセン(Narcissus)
キリスト教文化:イースター(復活祭)とラッパズイセン
キリスト教文化では、スイセンは春の最大行事である「イースター(復活祭)」と深く関わっています。
花の形が聖母マリアを象徴する百合に似ていることから、「Lent lily(レントリリー)」とも呼ばれています。
Lentとは、キリスト教の「四旬節」のこと。
イースター(復活祭)までの40日間、懺悔(ざんげ)や節制を行う期間のことを言うんだよ。
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イースターの時期には、教会の祭壇や家庭のテーブルをスイセンで飾る習慣があります。

ラッパスイセンを使用したイースター(復活祭)のテーブルデコレーション
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また、グリーティングカードやイースターエッグなどのモチーフとしても親しまれています。

イースターカードに見るラッパズイセン
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スイセンの明るい黄色や白の花が「復活」や「新しい命」を象徴し、春の喜びを祝います。
イギリス文学:春を告げる花
シェイクスピアが描いた春の花
イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアは、スイセンを「春の訪れ」を象徴する花として作品に登場させています。
『冬物語(The Winter’s Tale)』には次のような一節があります。
Daffodils, That come before the swallow dares, and Take the wind of March with beauty;
– William Shakespeare, The Winter’s Tale(ツバメが飛び立つ前に咲き、三月の風を美しさでとりこにするスイセン)
引用:『シェイクスピアの花園』シェイクスピア劇より/ウォルター・クレイン:画(マール社、2006)

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「ツバメが飛び立つ前に咲き、三月の風を美しさでとりこにするスイセン」という描写から、春を待ち望む人々の喜びが伝わってきます。
シェイクスピアにとってスイセンは、自然の中の「希望」と「再生」を象徴する花でした。
ワーズワースと「水仙」
イギリス詩の中で最も有名なスイセンの描写といえば、詩人ウィリアム・ワーズワースの『水仙(Daffodils)』です。
“I wandered lonely as a cloud
That floats on high o’er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host, of golden daffodils;
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.”
— William Wordsworth, 1807
ひとり雲のように丘や谷をさまよっていたとき、
突然、無数の金色のスイセンの群れを目にした。
湖のほとり、木々の下で、
風に揺れ、軽やかに踊っているかのようだった。
(※引用部分の日本語訳は、原文をもとに記事の文脈に合わせて意訳しています。)
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湖畔に咲く無数のスイセンを見た喜びを詠んだこの詩は、自然の中で感じる小さな幸せと心の安らぎを丁寧に描いています。
ワーズワースにとってスイセンは、華やかさよりも「静かな幸福」を象徴する花だったようです。

湖畔に咲く無数のスイセン
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ワーズワースが思いがけず出会ったのは、こんな景色だったのでしょうか。
おわりに
スイセンは、神話では「内省」、宗教では「希望」、文学では「春の象徴」として描かれてきました。
その学名 Narcissus、そして一般名 Daffodil にも、人々が自然に託してきた思いが込められています。
花の繊細な美しさと、その背景にある物語を知ることで、自然の本当の豊かさをより深く感じられる気がします。
次回はウィリアム・モリスのデザインに見られるスイセンを取り上げ、芸術と植物の関係を掘り下げてみたいと思います。
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関連記事
・こちらでは、初冬から春先にかけて出会ったスイセンについて紹介しています。
《参考》
「神話と伝説にみる花のシンボル事典」 杉原梨江子 講談社 2021.7.15
「花の神話伝説事典」 C.M.スキナー[著] 垂水雄二・福屋正修[訳] 八坂書房 2016.3.25
※この記事は、関連サイト「Azure Garden」の自然を楽しむブログより移行・再編集したものです。(2025.11.12)
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・植物に学ぶシリーズはこちら。




























