【花とアート】ゴッホ《7つのヒマワリ》を訪ねて|大塚国際美術館

2018年春、徳島県鳴門市の大塚国際美術館を訪れました。
開館20周年記念事業として新設された「7つのヒマワリ」の展示室では、ゴッホがアルルで描いた7点の「ひまわり」が陶板で原寸大に再現されていました。
そのうち1点は戦災で焼失、もう1点は個人所蔵のため一般公開されていませんが、残る5点は世界各地に点在しています。
オリジナルではないものの、同じテーマの作品が一堂に並ぶ光景は特別です。
Contents
ゴッホにとっての『ひまわり』
ゴッホにとって「ひまわり」は特別な意味を持つ作品だったといわれています。
彼は南仏アルルで画家の共同体をつくり、仲間と切磋琢磨しながら暮らすことを夢見ていました。そして、その空間を、画家の希望を象徴する黄色のひまわりで飾りたいと考えていたのです。
弟テオに宛てた手紙には、「自分の描いたひまわりでアトリエを飾り、親友ゴーギャンを迎えたい」という思いが記されています。
その夢は生前に果たされることはありませんでした。
「7つのヒマワリ」の展示室
深い青の壁に映える「7つのヒマワリ」が一堂に並ぶ光景は、まさにゴッホが思い描いていた『黄色い家』を体験するかのように感じました。
本記事では、その展示順に沿ってご紹介します。
(※フィラデルフィア美術館とファン・ゴッホ美術館所蔵の作品は、資料によって並び順が異なる場合がありますが、ここでは大塚国際美術館での展示を基準としています。)

原寸大に再現された「7つのヒマワリ」の展示室
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世に出ていない2点
アルルで最初に描いたターコイズブルーの背景のひまわり(個人蔵)と、戦災で焼失した作品。現在は目にすることができない「幻のひまわり」です。

個人蔵(アメリカ・1888年8月)
アルルで最初に描いたひまわり。

山本顧彌太旧蔵(焼失・1888年8月)
現存しない「幻のひまわり」。
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希望を抱いていた時期
1888年8月に描かれた2点は、実際に花瓶のひまわりを前にして制作されたといわれています。
アルルでの新しい生活に希望を抱いていた時期のもので、鮮やかな黄色が印象的です。
ノイエ・ピナコテーク(ドイツ)の作品は、背景の明るいブルーと花の黄色のコントラストが際立ちます。
ナショナル・ギャラリー(イギリス)の作品は、世界的にもよく知られる代表作で、当時ゴーギャンが「completely Vincent(まさにゴッホらしい)」と評したとも伝えられています。

ノイエ・ピナコテーク所蔵(ドイツ・1888年8月)
背景が明るいブルーで、黄色とのコントラストが美しい。

ナショナル・ギャラリー所蔵(イギリス・1888年8月)
世界的にもよく知られる代表的な作品。
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模写(セルフコピー)の3点
その後に描かれた3点は、1888年8月の2点をもとにしたセルフコピーとされています。
同じ題材でも微妙に色味やタッチが異なり、ゴッホが研究熱心に取り組んでいたことが伝わってきます。
SOMPO美術館に所蔵されている1枚は、耳切り事件の直前に描かれたものといわれています。
さらにフィラデルフィア、アムステルダムに残る2点は、その事件の後に描かれたとされており、ゴッホの心境の変化を想像させる作品群です。

SOMPO美術館所蔵(日本・1888年11月−12月)
日本で唯一所蔵されている作品。

フィラデルフィア美術館所蔵(アメリカ・1889年1月)
少し暗めの色調。他の作品と比べて落ち着いた印象。
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ファン・ゴッホ美術館所蔵(オランダ・1889年1月)
ゴッホの故郷にある一枚。
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ゴーギャンが描いたゴッホ
展示の中には、ゴーギャンが描いた《ヒマワリを描くゴッホ》も紹介されていました。
アルルでの共同生活の中で互いに刺激を与え合った二人の画家。
しかし次第に意見の違いが大きくなり、激しい衝突の末、共同生活はわずか2ヶ月ほどで終わりを迎えたと伝えられています。

ゴーギャンが描いた《ヒマワリを描くゴッホ》
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そんな時期にゴーギャンが描いた《ひまわりを描くゴッホ》。
ただ、ゴッホはこの絵を見て「これは確かに自分だが、気の狂った自分だ」と語ったといいます。
ある一説によると、自身の耳の描かれ方を気に入らなかったとも伝えられています。
心穏やかではなかったゴッホが、それでも筆をとり、ひまわりに希望を託そうとした姿が思い浮かびました。
展示空間の魅力
館内はひまわり色に彩られ、ロビーには黄色いフラワーアレンジメントに囲まれた垂れ幕が飾られていました。
カフェ「Cafe Vincent」も椅子から壁まで黄色で統一され、ゴッホの世界を体感できます。

大塚国際美術館のゴッホカフェと装飾
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ミュージアムショップ
ショップにはポストカードや雑貨、ぬいぐるみ姿のゴッホまで。可愛らしいアイテムが並んでいました。

ミュージアムショップの可愛いお土産
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さらに今回の一斉展示の公開を記念して、来館者には「ひまわりの種」のプレゼントもありました。

「7つのヒマワリ」展示記念。来館者に配布されたヒマワリの種
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おわりに
太陽に向かって咲くひまわりは、理想を追い求める「芸術家の象徴」。
ゴッホは同じ題材に向き合い続け、研究心を持ちながら、揺れ動く心の変化の中でもひまわりを描き続けました。
彼は生前に「ひまわりの画家」と呼ばれたいと願っていたようです。
その願いを知る友人たちは、葬儀にひまわりの花を手向けたといわれています。
そして今、ひまわりは時を超えて彼の代表作となり、世界中の人々に知られ、愛されています。
そんな思いを感じながら、ゴッホの夢見た「黄色い家」を体感することができました。
《参考》
・開業20周年記念事業 ゴッホ作“花瓶のヒマワリ”全7点が世界から集結#7つのヒマワリー陶板で原寸大再現ー, 大塚国際美術館, 2025.8.22
・フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》, SOMPO美術館, 2025.08.22
・Sunflowers, Van Gogh Museum, 2025.8.22
追記(2025年8月22日更新)
その後、この展示室には新たに2点の作品が加わりました。
2018年11月には《タラスコンへの道を行く画家》が、さらに2019年3月にはイサーク・イスラエルスによるオマージュ作品《ヴァン・ゴッホ「ひまわり」の前に立つ女》が展示されたようです。
またいつか訪れた時には、その2点も合わせて鑑賞できたらと思います。
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実際のひまわりの特徴については、こちらの記事でまとめています。

大塚国際美術館の基本情報
施設名 : 大塚国際美術館
住 所 : 〒772-0053 徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字福池65-1
公式URL :https://o-museum.or.jp
詳細は上記URLにて最新情報をご確認ください。
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同じくゴッホが希望を託した作品として知られる《花咲くアーモンドの木の枝》についても紹介しています。