【バラに学ぶ】Blythe Spirit(ブライス・スピリット)|『陽気な幽霊』に登場する花と庭

ブライズ スピリット(Blythe Spirit)
Column

バラ園で出会った、淡いレモンイエローのバラ「Blythe Spirit(ブライス・スピリット)」。

名前の由来を調べてみると、イギリスの劇作家ノエル・カワードの戯曲『Blithe Spirit(ブライズ・スピリット)』にちなんで名付けられたバラであることを知りました。

日本では『陽気な幽霊』や『ブライズ・スピリット~夫をシェアしたくはありません!』の題でも知られる作品です。

戯曲というと少し難しそうなイメージがありましたが、バラをはじめ、花や庭にまつわる場面に着目すると興味が湧いてきました。



バラは「Blythe」、戯曲は「Blithe」

名前の由来を調べていて気になったのが、バラと戯曲の綴りの違いです。

バラの品種名は「Blythe Spirit」。
一方、ノエル・カワードの戯曲は『Blithe Spirit』と綴ります。

「blithe」には「陽気な」「快活な」といった意味があり、古英語の「blīðe」に由来する言葉のようです。

一方、「Blythe」も同じ古英語の言葉に由来し、現在では人名などにも見られる綴りです。

一文字違う二つの名前ですが、調べてみると、どちらも「陽気な」「楽しい」といった意味につながる言葉でした。

淡いレモンイエローの軽やかな花姿にも、どこかその名前に通じるものを感じます。

『Blithe Spirit』はどんな物語?

『Blithe Spirit』は、イギリスの劇作家ノエル・カワードが1941年に発表したコメディ戯曲です。

物語は、小説家チャールズが新作の取材のため、自宅に霊媒師マダム・アルカティを招いて交霊会を開くところから始まります。

ところが、そこで思いがけず呼び出されてしまったのが、7年前に亡くなった先妻エルヴィラの幽霊。その姿はチャールズにしか見えません。

チャールズと現在の妻ルース、幽霊となって戻ってきた先妻エルヴィラをめぐる騒動が始まります。



原作に描かれた花と庭

花や庭に着目して原作をたどる中で、まず目に留まったのが、エルヴィラとバラの描写です。

幽霊として現れたエルヴィラは、髪や肌、服、手など、すべてが灰色の姿で描かれています。

Act II, Scene I の舞台指示では、そんなエルヴィラがたくさんのバラを抱えて庭から現れます。

“The roses are as grey as the rest of her.”
— Noël Coward, Blithe Spirit, Act II, Scene I

エルヴィラだけでなく、彼女が抱えているバラまで灰色です。

そして話題は、庭の植栽へと移ります。

エルヴィラは、日時計のそばにあるボーダーがすっかり台無しになったと不満を口にします。

“You’ve absolutely ruined that border by the sundial—it looks like a mixed salad.”
— Noël Coward, Blithe Spirit, Act II, Scene I

日時計のそばのボーダーを「まるでミックスサラダのよう」と表現するエルヴィラ。

さまざまな植物が入り混じった植栽が、ごちゃごちゃして見えたのでしょうか。



さらに、そこにまとまって植えられたナスタチウムについても気に入らない様子です。

チャールズがナスタチウムを好きだと答えると、エルヴィラは少量ならよいけれど、あれほどまとまって植えられているとひどく見える、という趣旨のことを話します。

かつてこの家で暮らしていたエルヴィラにとって、庭もまた思い入れのある場所だったのでしょう。

庭の植栽をめぐる何気ない会話からも、チャールズをめぐる二人の女性のプライドが垣間見えるような気がしました。

同じ Act II, Scene I では、花が意外な形で使われる場面も登場します。

現在の妻ルースには、エルヴィラの姿を見ることも、その声を聞くこともできません。

チャールズはエルヴィラの存在を証明するため、ピアノの上に置かれていた花のボウルを、暖炉の上まで運んで戻すようエルヴィラに頼みます。

“Ruth—you see that bowl of flowers on the piano?”
— Noël Coward, Blithe Spirit, Act II, Scene I

ルースにはエルヴィラが見えないため、花のボウルだけがひとりでに動いているように見えます。

生成AIによる『Blithe Spirit』のイメージ

生成AIによる『Blithe Spirit』のイメージ

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灰色のバラ、庭のボーダーとナスタチウム、そしてひとりでに動く花のボウル。

花や庭が何気なく物語に入り込んでいるところにも、どこか庭園文化のあるイギリスらしさを感じました。

『Blithe Spirit』が生まれた1941年

この作品が書かれた1941年は、第二次世界大戦のさなかでした。

当時のロンドンではドイツ軍による空襲が続いており、ノエル・カワードはウェールズのポートメイリオンに滞在していたときに、わずか6日間でこの作品を書き上げたといいます。

1941年にロンドンで初演された『Blithe Spirit』は、1,997公演に及ぶロングランを記録しました。その後も映画化や舞台上演が重ねられ、80年以上を経た現在も親しまれている作品です。

バラから文学をたどってみる

バラ園で「Blythe Spirit」というバラに出会い、『Blithe Spirit』という戯曲を知り、その作品の中でまた別の花や庭に出会いました。

これまであまり馴染みのなかった戯曲も、植物に着目して原作をたどってみると、少し世界が広がったような気がしました。

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参考資料
・Noël Coward, Blithe Spirit
・David Austin Roses メールマガジン「Behind the Rose: ブライス・スピリット」(2026年8月8日配信)
・Noël Coward Archive『Blithe Spirit』関連資料
・SuperSummary「Blithe Spirit: Symbols & Motifs」




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